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7月中旬、わが視聴部屋『ボア・ノワール』が、さらなる発展を遂げた。
すでに本誌110号で紹介したように、昨年の7月、ボア・ノワールの電源環境はすでにかなりのグレードに達していた。その工事を終えてから現在まで、わたしが電源に関して不満を持ったことは、一度もなかった。その時は、バッファー・オーディオ(当時サウンドデン扱い)のノイズカットする電源トランスIPT3000(200V仕様)を導入し、次に専用のオーディオ用室内専用配線(200V&100V)を数本張りめぐらし、その元には、オーディオ専用の分電盤SCBD-30Aを設置したのだ。
分電盤、配線材、端末のコンセントはいずれもクライオオーディオテクノロジーの製品、コンセントボックスは、チクマの製品を使用した。
このシステムを導入してから丁度1年、クライオオーディオテクノロジーで新しい分電盤が完成したという。写真で見ると、いかにもがっちりした造りである。今までのSCBD-30Aは小型で狭いスペースに設置出来る有利さはあるが、ボックスの造りがひ弱だと感じていた。得られた音はいいのだから文句はないが、ここから外径約16.5mmという極太のケーブル、SCVR-3.5が5本も引き出されている様を見ると、痛々しい感じを受ける。新しいスーパークライオピュア分電盤SCBD-40ASは、40×40×12cm、13.5kgという大型のスチール製ボックスに入っている。標準価格は30万円(税抜)と高いが、製品を手にするとなるほどと納得する。クライオオーディオテクノロジーの厳しいオーダーに基づき、国内の専門メーカー、オービットが製作したもので、さすがと感じさせる。中央上部に40A(アンペア)の主幹ブレーカー(単相3線式漏電遮断器)があり、その下の各配線ごとに30A或いは20Aの分岐ブレーカー(クライオオーディオSCBR-30AS/SCBR20AS)が最大8個までとりつけられるようになっている(標準仕様では、SCBR-30AS×2個、SCBR-20AS×4個)。
主幹ブレーカーと分岐ブレーカーは、太いバーで結ばれている。中央上下に走る3本のメインバーは、10mmはあろうかという頑丈なもの。そこから分岐ブレーカーに分岐するための分岐バーも幅数ミリという代物だ。いずれのバーも銀メッキした厚い銅板で、それを止めるネジも同様である。主幹、分岐のブレーカー、各種バー、とめネジのすべてにはスーパークライオ処理が施されている。ボックスの蓋にあるロゴマークはそれを示すもので、ボックス自体はクライオ処理されていない。スーパークライオ処理とは、ガス雰囲気法によるオリジナルなクライオ処理の温度の上げ下げのタイミングの見直し、処理時間の大幅な延長などで物性的にも音質的にもほぼ完全な処理を実現したものだ。
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この分電盤に変えると、「音質がさらに向上します」というクライオオーディオの誘いと、これに変えて悪いはずはない、という直観が結びつき、導入を考えたが、待てよと思い当たることがあった。昨年、室内配線工事が終了してから、分電盤を取り付けた壁面に、DVDを収納する棚を造り付けた。新しい分電盤を取り付けるスペースはあるが、上下に極太の線を引き込むスペースはなさそうだ。これだけ太い線だとゆるくアールを付けて引き込まねばならないが、そうすると上下のスペースが足りないのだ。万一の場合は、棚を外してもいいと考えクライオオーディオに相談してみると、前回の工事を担当した栗原電気の栗原さんに下見を依頼するという。現状を見た栗原さんは、分電盤の左右に穴を開け、そこから配線を引き込めば大丈夫だと言った。万事解決である。
実際に新しく壁に取り付けられた分電盤は実に立派で、極太線材がよく似合うルックスである。ボディを叩いても甲高い音は出ず、蓋を叩いても嫌な振動音が出ない。 |
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スイッチオンから十分ほどして試聴を開始した。電源のどんな部分を変えた時でも、通電直後の音は参考にならぬことを経験で知っているからだ。最初の試聴ディスクは、ムターがソロを弾いている『ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲』(SACD輸入盤)である。なぜ、このディスクを選んだのかといえば理由がある。演奏会場の空気が変わるのが音にはっきりと出るからだ。これはニューヨークのリンカーンセンターでのライブ録音で、冒頭にわずかなノイズだけが聞こえる短いスペースがある。解像度の高いシステムで聴くと、そのノイズの中には、場外から入ってくる街ノイズが含まれているが、その音が再生するシステムによってかなり変化するのだ。鮮明にノイズの起伏が分かるようになることもあるし、同じレベルのノイズが持続しているとしか思えないこともある。
さらに慣れてくると、その変化が音のバランスと連動していることも分かるようになる。現実感を感じさせるバランスで響くこともあるし、バランスが崩れて現実感が薄れることもある。
今回のケースでは、ノイズの起伏の変化がはっきりとし、ノイズの低域成分が増しているのが分かった。分かりやすく言えば、解像度が増し、現実感も強くなった。これはわずかな変化ではあるが、聴感ではっきりと分かる変化でもある。ノイズの変化は、楽音の変化より分かりやすい。それが好ましい変化がどうかは別として、変化の実態は確実に掴めるのだ。
私は、この方法をケーブルの方向性を確かめる時に活用している。勿論、楽音でもチェックするが、それより前に、ノイズでチェックしている。
その結果が異なったことは今までない。今回の場合も好ましい意味で、同様であった。
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栗原さん初め、この工事に立ち会った人達にじっくりと聴いてもらったのは、このところ愛聴している諏訪内晶子の『シベリウス/ヴァイオリン協奏曲』(SACD盤フィリップスUCGP-7009)であった。
これは彼女の資質が最も好ましい方向で華開いた演奏で、張りのある美しいソロバイオリンが聴ける。冒頭、オーケストラのバイオリンパートがピアニッシモでニ短調の和音を刻み出した瞬間、いままでとは異なる、しなやかな音の佇まいを感じた。弱音器を付けているのか、指板寄りで弾いているのかまでは分からないが、それがコンソルディーノで弾かれていることが分かる。そこに乗るようにソロバイオリンが入ってくる。そのメロディは哀愁に満ちているが、ひ弱ではなく、芯の強さと緊張感を感じさせる。この演奏から感じるのは、孤高のテンションである。悲しさの感情が漲っているが、凛(りん)と張り詰めている。
わたしが、このディスクを聴き続けているのは、このテンションがもたらす「華」を表出したいからである。
最近、部屋を改造し、再生システムを充実させることで、このテンションが感じられるようになってきた。そして、その日、最後のヴェールが剥がされた。上昇を繰り返すソロバイオリンが、センターにくっきりと定位し、張りのある響きが、くっきりと眼前に定位したのである。
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